電気エネルギー方式 電磁パルス弾技術

Summary

本書は、非殺傷的に敵の電子機器を無力化・破壊する電磁パルス(EMP)弾のうち、電気エネルギー方式の技術概要と構成要素を解説した技術総説である。種電源、主電源(マルクス回路)、電磁波発生部(仮想陰極発振/バーケータ)、放射部(ホーンアンテナ)の各機能と原理、さらに各国の開発動向および早期実用化に向けた研究の重要性をまとめている。

技術総説:電気エネルギー方式 電磁パルス弾技術

技術総説 TECHNICAL REVIEW 電気エネルギー方式 電磁パルス弾技術 防衛装備庁 陸上装備研究所 システム研究部 火力システム研究室 卜部 玄

はじめに

電磁パルス弾は、1962年に米国が上空400kmで核実験を行った際に偶然発見された現象を基に提案されたのが始まりである。当時、上空で起こった核爆発で発生した強力な電磁波により、人の死亡や建造物の破壊は起こらなかったが、爆発地点から半径30km以内の通信網が使用不能になり、半径1,200km以内で通信障害が起こった。この現象から、核兵器を使用せず強力な電磁波を発生させることにより、非殺傷的に攻撃可能な兵器、すなわち電磁パルス弾が考えられるようになった1),2)。近年はインターネットや電波通信が防衛分野でも必須であるため、電磁パルス弾は物理的破壊によらない兵器として着目されている。

電磁パルス弾の概要

電磁パルスは電子機器内部に侵入することで機能に影響を及ぼす。電子機器内部に電磁パルスが侵入する経路はフロントドアとバックドアの2種類があり、電磁パルスがアンテナを経由して電子機器内に侵入する経路がフロントドア、アンテナを経由しない経路がバックドアと呼ばれる(図1)。

阻害効果は干渉、妨害、障害、破壊の4種類に分類され、最も軽微な効果が干渉、最大の効果が破壊である(表1)。

表1 阻害効果の分類3) ・干渉:電磁パルス照射時にのみ、わずかな影響がある ・妨害:電磁パルス照射後、効果は持続するが自然回復が可能 ・障害:回復に人手が必要 ・破壊:回復にハードまたはソフト等の交換が必要

各種飛翔体に搭載し、敵部隊等の上空でパルス状の強力な電磁パルスを放射させることのできるものが電磁パルス弾であり、上記の阻害効果を利用して敵部隊の電子機器類を一時的(可逆的)に無力化または恒久的(不可逆的)に故障(破壊含む)させることが可能である。

近年、各種装備品には精密な電子機器や通信機器等が多数用いられ、部隊の連接行動や情報共有および個人行動把握に必要不可欠となっている。一方、これらの電子機器や通信機器等を一時的に無効化させることができれば、我の作戦行動が優位に進められる可能性が高い。また電磁パルスは「パルスパワー」を用いたノンキネティック対処とも呼ばれ、人員を殺傷することなく戦局を優位に進めることができる可能性を秘めた技術である。図2は電磁パルス弾の運用イメージである。

パルスパワーのイメージ

水でモノを破壊するならば、蛇口から出る水の勢い(パワー)よりもダムの放流で生じる水の勢い(パワー)のほうが適している。同じように電子機器を故障させるには、強力なパワーを持つ電磁波を照射する必要がある。ところが、そのようなパワーを持つ電磁波を長時間放射するには、ダムのように大きいエネルギーを蓄積できる装置が必要になり、飛翔体への搭載は困難である。一方、サイズを小さくすると、蛇口から出る水の勢いのように電磁波のパワーも弱くなり、目的を果たせない。そこで小さいエネルギーを圧縮し、大きいパワーを短時間放出させるパルスパワーの技術を用いることで、装置の小型化と強力な電磁波の両立を目指したのが電磁パルス弾である。バケツに溜めた水をウォータージェットで一気に放出すれば、短時間ではあるが、強力な勢いで水を放出できるイメージである(図3)。

電磁パルス弾の区分

電磁パルス弾は、その電源の方式によって電気エネルギー方式と火薬エネルギー方式の2種類がある(表2)。電気エネルギー方式は電気回路用の部品を使用して電磁パルスを発生させるため、装置が故障しない限り照射を繰り返すことが可能、すなわち広範囲に電磁パルスを放射可能である。火薬エネルギー方式は爆薬を爆発させて電磁パルスを発生させるため、一度しか電磁パルスを放射できない一方、電気エネルギー方式の数十倍以上の出力を有する電磁パルスを放射可能と見込まれている。陸上装備研究所では電気エネルギー方式と火薬エネルギー方式のいずれの研究についても取り組んでいるところではあるが、本稿では電気エネルギー方式について解説する。

表2 電磁パルス弾の種類 【電気エネルギー方式】 ・長所:複数回の放射が可能(広範囲へ放射または同一目標への累積放射が可能) ・短所:電磁パルスの出力が弱い

【火薬エネルギー方式】 ・長所:電磁パルスの出力が強い(電気エネルギー方式の数十倍以上が期待できる) ・短所:放射は1回のみ

電気エネルギー型電磁パルス弾頭部の構成

⑴ 全般 電磁パルス弾頭部は種電源、主電源、電磁波発生部および放射部の4部位で構成される(図4)。

⑵ 種電源 種電源は主電源を充電するための電源である。種電源には、短時間で数多くの電磁パルスを放射できるバッテリーが適している。バッテリーのエネルギー密度が大きいほど電磁パルスを放射できる回数が多くなり、出力密度が大きいほど電磁パルスを高頻度で繰り返し放射できるため、両者が大きいほどバッテリーの性能が高い(図5)4)。しかし両者はトレードオフの関係にあるため、使用用途に応じてバッテリーが使い分けられているのが現状である(図6)。

⑶ 主電源 主電源はパルス状の高電圧を発生させ、その電圧を電磁波発生部に印加する部位である。主電源の候補となる技術として、マルクス回路、パルストランス、積重ね線路(stacked Blumlein generator)などが考えられるが、電磁パルスの出力を大きくできるよう、高電圧を発生できる主電源が望ましい。その中で、当研究所がこれまで扱ってきたマルクス回路について説明する。 マルクス回路の基本は、同電圧で充電したn個のコンデンサを直列に接続すれば、電圧がn倍で出力されることにある。これは、V0の電圧をn個直列接続すると出力電圧がn倍になるのと同じである(図7)。回路は少し複雑であるが、二つに分けると理解しやすい(図8)。マルクス回路を充電しているときは、各コンデンサが抵抗を介して並列に接続されている形で充電が完了して、スイッチがオンになると、各コンデンサが直列に接続されている形となり、出力の電圧が充電電圧のn倍になる。

⑷ 電磁波発生部 電磁波発生部は主電源で発生したパルス状の高電圧を受け、電磁波を発生させる部位であり、様々な手法が提唱されている(表3)。ここでは高出力電磁パルスの発生が期待でき、かつ先行事例が多く当研究所でも検討している仮想陰極発振について解説する。 電子源である陰極の付近に網目状の陽極を設置すると、陰極から放出した電子が陽極に向かって加速される。陽極が網目状のため、電子は陽極を通過するが、一定以上進行した位置に多数の電子が蓄積し、電子の集合体である仮想陰極が形成される。発生する電磁波には、仮想陰極の振動によるものと陰極と仮想陰極の間の電子の往復運動によるものの2種類があると考えられている(図9)。

表3 電磁波の発生方式 ・仮想陰極発振:出力 高(~GW)、周波数帯域 中、技術的難度 難 ・磁気絶縁発振:出力 高(~GW)、周波数帯域 狭、技術的難度 難 ・ギャップ放電:出力 中(数10MW)、周波数帯域 広、技術的難度 易

⑸ 放射部 放射部を構成するアンテナには様々な種類がある8),9)。仮想陰極発振は真空管内で起こり、また真空管は導波管の役目も果たすため、放射部は導波管と接続できる形式が良い。導波管と接続しやすいアンテナの候補にはパラボラアンテナとホーンアンテナがある。小型化はホーンアンテナが行いやすいため、当研究所ではホーンアンテナを採用している。 放射部は電磁波の放射方向を一定方向に絞ることで、電磁波の出力を増加させる。図10は、原点Oに1Wの電磁波源を置いた時の電磁波の放射の概略図である。電磁波は3次元的に空間へ放射されるため、放射部が無い場合、原点から距離rだけ離れた点aの放射密度は、放射電力を球の表面積で割った1W/4πr²になる(表4)。一方、利得が10倍(利得が10dBi)のアンテナを設置すると、放射方向は狭まるが、点aでの放射密度は10倍になる。点aから原点Oを見ると、アンテナが無い状況下で10Wの電磁波源が原点にあるのと同じ状態である。この10Wがこの条件下での有効放射電力となる。そのため放射部で放射方向をどれだけ絞れるかが、構造検討の要となる。

表4 アンテナ有無による放射密度と有効放射電力の比較 ・アンテナ無し:点Oの放射電力 1W、点aの放射密度 1W/4πr²、有効放射電力 1W ・アンテナあり(利得10dBi):点Oの放射電力 1W、点aの放射密度 10W/4πr²、有効放射電力 10W

電磁パルス弾に関する各国の動向

電磁パルス弾については各国とも限られた情報しか開示していないため、不明な点が多い。表5に開示されている情報から作成した内容を示す。

電磁パルス弾に採用している方法について、米国10)〜13)と日本は電気エネルギー方式と火薬エネルギー方式の両方を、韓国は電気エネルギー方式を、他国は火薬エネルギー方式を採用している模様である。米国、ロシア、中国、ウクライナ、イスラエルは装備品または開発品を公表済みであり、技術的な遅れを防止するために日本も早急な技術開発が求められている。

表5 各国の動向 ・米国:電気エネルギー方式(構造: 不明, 放射電力: 不明, 公表: 有り)、火薬エネルギー方式(構造: 爆薬発電機+仮想陰極発振, 放射電力: 不明, 公表: 有り) ・ロシア:火薬エネルギー方式(構造: 爆薬発電機+仮想陰極発振, 放射電力: 不明, 公表: 有り) ・中国:火薬エネルギー方式(構造: 不明, 放射電力: 不明, 公表: 有り) ・ウクライナ:火薬エネルギー方式(構造: 爆薬発電機+磁気絶縁発振, 放射電力: 2.4GW以上, 公表: 有り) ・イスラエル:火薬エネルギー方式(構造: 不明, 放射電力: 不明, 公表: 有り) ・韓国:電気エネルギー方式(構造: マルクス回路+仮想陰極発振, 放射電力: 1GW以上, 公表: 無し) ・日本:電気エネルギー方式(構造: マルクス回路+仮想陰極発振, 放射電力: -, 公表: 無し)、火薬エネルギー方式(構造: 爆薬発電機+仮想陰極発振, 放射電力: -, 公表: 無し)

まとめ・参考文献等

当研究所では、電気エネルギー方式に関しては主電源にマルクス回路、電磁波発生部に仮想陰極発振、放射部にホーンアンテナを搭載採用した電磁パルス弾に取り組んでいる(図11)。装備品または開発品を公表済みの諸外国から技術的に遅れることを防止するために電磁パルス弾の研究開発は急務であり、火薬エネルギー方式と電気エネルギー方式を両輪とした電磁パルス弾の研究開発を加速させ、早期実用化に向けた取り組みを推進しているところである。

参考文献等 1)N. Chopra, E. V. K. Kamboj, “E-BOMB,” International Journal of Enhanced Research In Science Technology & Engineering, 2013. 2)N. Swietochowski, “The History and Use of Electromagnetic Weapons,” History and Politics, 2018. 3)防衛装備庁、https://www.mod.go.jp/atla/soubiseisaku/vision/rd_vision_kaisetsuR0203_01.pdf. 4)武蔵エナジーソリューションズ株式会社、https://www.musashi-es.co.jp/lithium-ion-capacitor/ 5)C. F. Lynn, J. Parson, M. C. Scott, S. E. Calico, J. C. Dicknes, A. A. Neuber, J. Mankowski, “Anode Materials for High-Average-Power Operation in Vacuum at Gigawatt Instantaneous Power Levels,” IEEE Transactions on Electron Devices, 2015. 6)J. Zhang, D. Zhang, Y. Fan, J. He, X. Ge, X. Zhang, J. Ju, T. Xun, “Progress in narrowband high-power microwave sources,” Physics of Plasmas, 2020. 7)C. Miller, “Breaking Down Dielectric Breakdown,” https://www.holepop.com/breaking-dielectric-breakdown/ 8)パスタナック社、https://www.pasternack.jp/ 9)サーキットデザイン、https://www.circuitdesign.jp/technical/antenna-s/ 10)https://www.globalsecurity.org/military/systems/munitions/hpm.htm 11)https://www.survivalplus.com/selected/E-Bombs-Part-3-of-4.htm 12)https://www.nbcnews.com/news/north-korea/microwave-weapon-could-fry-north-korean-missile-controls-say-experts-n825361 13)http://www.thedrive.com/the-war-zone/16821/could-microwave-cruise-missiles-or-f-35s-really-take-out-north-korean-ballistic-missiles 14)P. V. Pry, “RUSSIA: EMP THREAT,” EMP Task Force on National and Homeland Security, 2021. 15)P. V. Pry, “CHINA: EMP THREAT,” EMP Task Force on National and Homeland Security, 2020. 16)https://defence.pk/pdf/threads/indo-israeli-standoff-emp-emitting-missile-dew-for-sead-to-enter-serial-production-this-year.378031/ 17)S. Mumtaz, E. H. Choi, “An Efficient Vircator With High Output Power and Less Drifting Electron Loss by Forming Multivirtual Cathodes,” IEEE Electron Device Letters, 2022.

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